かっこいい山形、オリエンタルカーペット社の工場見学

f:id:tmja:20200724121241j:plain

藍染めされた羊毛の古い緞通が我が家の玄関に有り、これは自分が20歳頃に中国で買い求めた「寧夏毯」と現地では呼ばれているもので、子供達は生まれた時からあるせいか、その存在には全く気にもとめずに毎日ドタドタと踏みつけています。トルキスタンで生まれたとされる"カーペット"はシルクロード、河西回廊と辿りながら東に拡がっていき、3-400年前には寧夏回族自治区と現在呼ばれている地域でも生産が開始されたと推測されております。当時勢力を拡大していたチベット仏教の寺院から膨大な数の緞通が求めれられ、中国皇室にも多数収められた事により北京故宮博物館には現在でも千枚にも及ぶ寧夏毯が収蔵されていたりもする中国緞通の数ある中でも名高い産地の敷物だったりします。

f:id:tmja:20200725142950j:plain

国内では、緞通が寧夏地域に伝わったのとそう変わらない300年前の元禄時代に、鍋島藩にて出島経由で知識を得た人々による製造が始まっていたと伝わっています。クッション性のある畳の生活様式を基本とする日本では緞通の需要が限られる為、輸出産業として大阪堺にて麻糸を用いる「堺緞通」が一時期は大阪一の出荷額を誇るまでとなるも、主要輸出先の米国による高率の関税により堺での生産は廃れてしまい、その伝統を継ぐのは丹後テキスタイル(京都)のみとなってしまいました。現在では手織りによる緞通生産は各地(佐賀、京都、赤穂)で小規模でおこなわれているのみに...

f:id:tmja:20191129103038j:plain

緞通がメディアで最近大きく取り上げられたと記憶があるものとしては、2019年のG20大阪サミットへの準備として、リーガロイヤルホテル大阪のロビーの大絨毯張替えがありました。50年前のホテル創業時にもロビーに敷き詰められた敷物の製造元・オリエンタルカーペット社が半世紀を経て再び受注を受けたものです。紅葉をかたどった緞通の艶やかさは天井に反射する程で、そのロビーを見るために自分も大阪訪問時には宿泊先をリーガロイヤルにしたのでした。

f:id:tmja:20200724121308j:plain

f:id:tmja:20190701142109j:plain

今回はリーガロイヤルホテル大阪ロビーの大絨毯を作成したオリエンタルカーペット社を尋ねに、山形県南東部に位置する山辺町にお邪魔して参りました。山辺町は木綿織りや染色業などの繊維業を伝統産業として持ち、20世紀に入ってからはメリヤス(ニット)産業の町として発展を遂げ、現在でもニット産業が集まる地域として知られている地域です。

f:id:tmja:20190701142036j:plain

f:id:tmja:20190701142106j:plain

緞通製造は繊維の町・山辺町の伝統産業という訳ではなく、山辺町では現在もオリエンタルカーペット社が唯一の緞通製造会社です。世界恐慌、昭和農業恐慌と続く大波に揺られていた昭和十年(1935)に山形県と東北振興株式会社が「日本絨氈製作所」を拓いたにが始まりで、直接的には寧夏毯に起源を持つと云われる宮毯(北京段通)の伝統を組む中国人技術者七名を華北より招聘し、その製造方法の指導を受けた事により始まりました。現オリエンタルカーペット社の創業者・渡辺順之助氏はその日本絨氈製作所のメンバーのひとりで、その後にオリエンタルカーペット社を設立し現在に続く会社が始まったのでした。工場の敷地に入ると独特な配色のなされた建物が目に飛び込んで来ました。三階建ての事務所を含む、これらの建物は戦後間も無くの昭和二十四年(1949)に建てられたもので、70年前の建物が現役で使用されております。

f:id:tmja:20190701142039j:plain

今回訪問は、母親の祝いごとに贈る一畳サイズ物の相談でオリエントカーペット社を訪れたのでした。自分自身が中近東から中国までの絨毯工房を訪ね歩く絨毯好きなので、妻と現地を訪れて購入したカシミール絨毯をクルマ後部座席に敷いていたりもしています。それ故に国内に残る手織りもおこなうオリエンタルカーペット社は是非ともお邪魔してみたい場所でした。↓下の動画は横糸を通した後に搦糸を叩いてます。

f:id:tmja:20190701142051j:plain

縦糸の向こう側に図案が透けて見えています。大唐華紋とも呼ばれる正倉院の花氈をモチーフとし簡素化したデザイン。オーダーメイドの場合には顧客より頂いた図案を拡大して原画を作り、色糸を指定して原画に色付けするのだとか。ひとつ上の動画に写っている桜模様の華やかな4.5畳間サイズの緞通は、消費税だけで50万円超えの"お手頃価格"となっております(*˙︶˙*)ノ゙ ちなみに、オーダーメイドは既存デザインの凡そ数倍の価格になるそうです。

f:id:tmja:20190701142046j:plain

f:id:tmja:20190701142042j:plain

秋の草花を散らした能装束柄の緞通を、立体的にして図柄をハッキリとさせる工夫「浮き彫り」も見ることができました。使用されている羊毛は1本1本が太く弾力性のある特徴を持つイギリスより輸入されたスコティッシュ・ブラックフェイスのもので、社内で糸を染めているので多彩な表現ができるのが強みだと説明を受けました。手刺し(フックガン)の工程も見学させて頂いたのですが、製造中のものがオーダーメイド品であったので写真撮影は不可でした。各地の緞通の話しや、染料を柘榴の皮、レモンの木、オリーブの葉などと指定してできるか等の技術的なこと、案内を頂いた年輩の男性はどんな質問にも即答して頂けたのが嬉しかったです。

f:id:tmja:20190701142102j:plain

オリエンタルカーペット社の艶出し加工、クリーニング作業場も見せて頂きました。多くの中国緞通と同じく仕上げとして化学処理を施すことにより、羊毛であってもシルクの様な光沢や肌触りを出しています。オリエンタルカーペット社は糸染めよりの全工程を自社でおこなう工場である故に染色技術や修復技術を長年蓄積してきた強みを持ち、緞通のメンテナンスでは国内で右に出るものはいないのだと大きな作業プールを目の前にして納得してしまいました。尋ねられたので、我が家の敷物は古いモノも含めて全て年に一度はガシガシと水洗いをして、天日干しをしており、「敷物は踏めば踏むほど良く、洗えば洗うほど綺麗になる」と考えていると答えたところ、驚いた顔をされてしまったのでした。