東京荒川区にある美術鋳造工房・堀川鋳金所にて子供と鋳造体験

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息子と一緒にJR山手線・西日暮里駅で降りました。世の中では品川駅近くの田町車両センター跡地に山手線の新駅が50年ぶりにできると騒いでいますが、山手線で現在最も新しい駅はこの西日暮里駅だったりします。JR山手線に加えて、地下鉄千代田線、日暮里・舎人ライナーの3つの路線が地下/地上/上空で交差している場所です。

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西日暮里駅の近くには37年連続で東京大学合格者数一位を誇る有名な開成中学校があるので、「息子よ、開成の栄光の星を目指すのだ」と、お受験の発破を息子に掛けに来た訳ではなく、この下町の路地の先に見える町工場・「堀川鋳金所」にお邪魔させて貰いに来たのでした。

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堀川鋳金所は東京オリンピックが開催された1964年に産声をあげた比較的若い会社ですが、国会議事堂正門の衆議院・参議院、最高裁判所の門表等の著名な建物の装飾を手掛けた実績のある美術鋳造を専門とする会社です。コチラで鋳造体験をさせて貰えると偶然に駅構内のチラシで見て知り、金属の女神様からのお誘いがという気分で、親子での体験をスグに申し込んでのでした。

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堀川鋳金所の外観です。堀川鋳金所の看板が掛かっており、なにやら壁沿いにソレらしき道具並んでいました。自分達を出迎えてくれたのは此方の四代目にあたる松本育祥さん。荒川区登録無形文化財保持者のお父様と一緒に働かれているそうです。看板の上に双頭の鷲の紋章の飾られているのが気のなり、高度な鍛冶文化持ったヒッタイトの紋章を表しているのかと思って聞いてみたのですが、「以前に注文を受けた品が余り、飾っているだけ」との回答でした...。

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京浜東北線の東側に位置する荒川区、江戸川区、葛飾区、北区、江東区、墨田区、台東区等は"東京低地"とも呼ばれていた土地で、明治政府の殖産政策を合図に田畑が広がる地帯を工業化した場所です。戦後の公害問題や環境悪化対策を受けて大中規模の工場が皆郊外・海外へと移転した後には、住宅地に小規模な工場が点在する現在の"下町"へと変貌しました。堀川鋳金所のように金属扱う工場も過去60年で8割も減してしまっています。

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作業場の内部の様子です。鋳物師の仕事場らしく軽金属用の定置ルツボが入って直ぐに見えました。火力はおそらくガスだと思います。その周りにも専門道具が並んでおり、見るとタコ焼きプレートも床にありました。この写真を見てから気が付いたのですが、炉の後ろに鋳造で造った仏像が写っています。結跏趺坐をしていて、右手に何か棒状のモノを持っているように見えます。

神宮大麻がその横に置かれていることと、炉の後ろの位置にあることにより、ただの鋳造作品ではないと感じました。荒神、愛宕権現、秋葉大権現等の火伏せを司る神、金屋子神、金山彦、金山姫、天目一箇神等の鍛冶を司る神々と考えを巡らせ、その姿から秋葉大権現を祀られているのかなと推測。

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堀川鋳金所では砂を材料とした鋳造加工(砂型鋳造)をおこなっており、工房には無数の外枠が重ねられていました。砂を掻くシャベルに篩(ふるい)、底冷えする寒さのなかでの作業時に使用する暖房器具と、置かれているものを見ているだけで作業風景が目に浮かんできそうです。

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そして天井には色々なカタチの無数の型(原型)が吊り下げられており、もしかしたら著名な建物に飾られている型がないかと目を凝らしてみましたが、自分には分かりませんでした。こういうところに何気なく日本橋の欄干にある麒麟像の原型があったりするもだと探してはみたのですが...。

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目の前に多量の砂がある作業場に陣取りました。鋳物で用いられる砂には高温で溶けた金属への耐熱性、金属を注いだ時に発生するガスを放出する通気性、狙う形を原型通りに表現する造型性等の色々な性能があると以前に訪れた鋳造工場で教わったのを思い出しました。完成品の肌目を綺麗にする等の目的で添加剤も多種有るなど砂だけをとっても奥深い世界のようです。堀川鋳金所では熊本県天草(記憶が曖昧です)の天然砂を使用しており、山積みになっているのは極端な乾燥をさける為だとか。

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作業場をウロウロ見学しているウチに、定盤に据えられた下枠への鋳物砂投入及び原型を使っての金属の通り道の"跡"付けまで終わってしまっていました。白くなっているのは肌砂と呼ばれるモノ(硅砂+澱粉)と聞いた記憶があります。金属は熱膨張をするので、鋳物砂との接触面と噛み合ってしまうのを目の細かい砂肌を間に入れることでスベスベ肌にする優れモノです。

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下枠に噛み合うように上枠を慎重に乗せて、ガタツキがないのを確認してから篩で砂を再度盛り込みます。そして突き棒を使って上から砂を押し固めていきました。突きが軽すぎると熱した金属を流し込む時に砂崩れしてしまうとかで、息子の作業の後に先生が再度押し固めていました。四隅はキッチリ、内側はフンワリがコツのようです。

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ここで鋳型を反転させる(下枠を上側にひっくり返す)と言われ、上枠に盛った砂をなるべく平らにすべく力込めて削ぎ、砂を綺麗に払って準備です。定盤上で反転させるために鋳型の向きを先ず90度回し、鋳型の腹の部分で立たせる為に手前に持ち上げます。それ今度は定盤の奥に移動させてから、手前へゆっくりと倒して反転完成となりました。

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砂に埋め込んだ原型が取り出しやすいように原型につながっている取手を棒で左右にトントンと叩きます。これをしないと原型を取り出す時に砂が一緒に剥がれてしまい、イチから作業を開始する必要があるのだとか。そして、上枠をゆっくりと持ち上げて原型を取り出すと...、

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上枠、下枠の双方に原型のあった跡がクッキリと残り、ここまでは(先生のスーパー補助のおかげで)無事完成です。砂が崩れてしまった箇所は先生が水筆でチョイチョイと修正しているのが見えました。上の写真は上枠側に金属注ぐ湯道を拵えるために、金属棒でグリグリと開けている場面です。

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完成した鋳物型をズラリと並べています。この日は(もと)一升呑みの妻へのぐい呑みと箸置きを密かに作成していました。溶かした金属を注入すると、上枠が圧で持ち上げられてしまうので重しを置くのをよく目にするのですが、これは実際に注湯作業前に置くとの事でした。

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今回使用する材料の錫が登場。錫は融点が238度と低いので扱いやすく、人類が石器時代から青銅器時代へ移行する際の青銅(銅+錫の合金)製造に欠かせない重要な鉱物のひとつでした。錻力(ブリキ)缶やハンダ、茶器等に利用されており、現在でも日常的に目にする事の多い金属です。錫は柔らかくインゴッドの棒も子供の力でも上の写真の通りです。

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その錫をガスバーナーで炙って溶かします。錫は本当に溶けやすく、マレーシア土産のピューターを家庭用ガスコンロで試しに溶けるか実験をしたことがあり....以下省略。この錫の簡単に溶ける性質により、製品→融解→再製品化とリサイクルも容易な特徴を持っています。

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白銀色に溶けた熱い錫を鍋状の容器より湯口へと注ぎます。300度はある状態でしょうからか、子供独りだけでは危ないと先生が手を添えて手伝ってくれました。4つ並べた鋳型に順番に注いでいきます。なるべく湯口の中央にと注いでいるようでした。
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3分程放置して型の中の金属が冷めるのを待ち、型を左右に振りながら割ると固まった錫の箸置きとぐい呑みが出てきました。理屈ではこうなっているだろうとは理解できるものの、実際に鋳型上枠を持ち上げて砂の中から出て来る時のワクワク感が堪りません。

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湯口から製品部分につながる錫で埋まった湯道を電ノコで切断し、尖った出っ張りをヤットコで、ゴツゴツした部分をヤスリで、表面を耐水ペーパーで満足いくまで 磨いて、磨いて、磨き抜きます。立体的なので削りたい面とヤスリを合わせるのが難しく、小さくて万力等にも固定ができないのでナカナカ難儀でしたが、母ちゃんの為ならエンヤコラ!!

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銀座八丁目の創業地に建つ深紅の銀座資生堂ビル。「新しく深みのある価値を発見し、美しい生活文化を創造する」を掲げる同社のビル入口に飾られているSHISEIDOの文字も堀川鋳金所の作品だとのお話しを聞きながら、シュッ、シャッ、シュッとヤスリがけを続けていました。

鋳造の鋳は「金」へんに「壽」と書きます。寿は長期間という意味だと考えると、鋳の字は(成形した形状を)長期間維持する金属とい意味だと思います。4,000年以上前のエジプト人もおこなった金属を求めるカタチに変える技術で、自動車のエンジンやホイール、街中の赤いポストにマンホール、身近なところで炊飯器の鍋やドアレバーと様々なモノが現在でも鋳造で造られています。

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その伝統的な技術の流れを汲む作業を堀川鋳金所さんで息子と一緒にさせて頂き、出来上がったぐい呑みがコチラです。表面には陶器のようなザラつきがあり、暖かみを感じられる肌地の酒器となりました。実際に造る前には完成後に旋盤で外周を削ってみようかと漫然と考えていたのですが、自分の能力ではカドばった感じになるのが見えたのと、妻にとっては息子が造ったモノの方がお酒も美味しく飲めるだろうと思い至り、このままでプレゼントする事にしました。