タイ王国北部、村中が鍛冶屋の「パーサクターイ」集落訪問

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タイ王国で刃物の街としてはアユタヤ北部のパーサク川沿いにある、ラオスやベトナムから昔に移住してきた人達の子孫が住むアヤンニック鍛治村がタイ国内外で有名ですが、今回はアユタヤから北に向かう事500キロ程、`雲南省(中華人民共和国)との国境にからも遠くない地域にある小さな集落「パーサクターイ」に初めて訪れた時の話しとなります。タイの鍛冶文化は多彩で、アユタヤ王朝時代からの伝統を守る鍛冶屋から、日本製の打ち刃物(包丁)を専門に扱うお店もあったりします。タイの刃物マニアのひとりからパーサクターイ集落の話しを聞き興味を持ち、おおよその所在地の目星を付けて乗り込んだのでした。

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パーサクターイ集落に入ったところです。村内には30ほど家族が住んでおり、同じ数だけ鍛冶場があるそうです。事前に約束をして待ち合わせをしていたドライバーさんに出発する前に行先の確認をしたのですが、「そんな場所は行ったことも聞いたこともない」との回答でしたので到達するのも危ういかと当初は思われました。自分より少し若いと思われるドライバーさんが実に素晴らしく、何処に行っても他人とすぐに打ち解けて話しを進める才能があり、且つ、好奇心が強くガンガン他人の家の敷地へと踏み込んでいくのでした。道が分からなければ、「このあたりに包丁とか作っている集落を知らないか?」と周囲の人達の助けを得て、パーサクタ―イの集落に無事に到着したのでした。

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パーサクターイ集落内には全くツテはなく、観光地でもないので敷地の外から覗くのが精一杯かなと訪問前には考えていたのですが、 彼(ドライバー)の溢れる猪突猛進精神のおかげで、どこでもズンズンと入り込んでいくことができたのでした。自分は仕事でタイにここ10年頻繁に訪問していたので拙いタイ語で最小限のことは伝えられるようにはなっていたのですが、鍛冶屋=チャンティーエッ、ステンレス鋼=スタンレース等の日常であまり使用しない言葉をその場で聞き取り/メモして覚えるというレベル。この時もドライバーさんが身振り手振りと、簡単な英単語で自分に説明をしようとしてくれたので大いに助かったのでした。

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ここは農家かなと判断して、自分では入っていかないであろう人家にもガシガシと突入していきました。なかには日本の刀匠の下請け業務と思われる作業をしている鍛冶場もありましたが、そちらはベトナムの鍛冶屋と併せて別の機会の話しにしたいと思います。敷地の奥へ、奥へと入っていくと鍛冶屋特有の金槌を叩く強い音が聞こえてきました。上の写真の手前に山積みとなっているのはトラックやバス等で使用される板バネ(リーフスプリング)です。日本国内では日立の安来鋼などが素材として広く流通しており用いられておりますが、沖縄などで現在でも板バネから農具や包丁を作っている鍛冶屋さんがおられたりするのと同じ。こちらでは自動車の板バネを切断するところから見学させていただけました。

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焼き入れの工程です。最初は先端部分だけを付け、その反応を見て刃物の温度を測っているようでした。自分のタイ語の理解が正しければマイパイ=竹を燃料としているそうで、乾燥させた竹は軽く1,000度は出るのだそうです。最初は水槽内の黒くなった水を指さして「コォー」と言われていたので、コーラみたいだろうと言っているのだろうと思っていたのですが石炭の英語=COALだったかもと帰路に思い至ったのは内緒の話しです...。自分のタイ語レベルがもっとあれば村内での分業や、村落の成り立ち、タイ国内の打刃物の現状などを聞けたのにと悔しい思いをしました。

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商品(完成品)を見せて貰いました。主に農具や鉈などの山刀が沢山並んでいます。持ち手は花梨や緬茄、紫檀等の種類が選べるのだそうです。バンコクのような大都会は例外でしょうが、地方の多くの民家にはだいたい鉈の1本はあるらしく、売れ行きは結構良いのだとか。遠くはドイツやアメリカからの注文も昨今はあるそうです。大きな火床を屋外に拵え、左右からこれまた大きな鞴を踏んで空気を送り込み、炭を焚べ続けながら製鉄をするタタラ操業がタイでも近年までおこなわれていたので、現在もしている場所ないかと写真を見せながら尋ねるも良い回答はありませんでした...

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長い刃渡りを持つ少し高級な山刀です。熱帯雨林で薮を払う目的で使用され、薄刃で軽めに造られています。日本では鉈と分類される刃物です。上の黒打ちの革ケース付きのものは特注品なので販売はできないと言われてしまいました。

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火づくりの工程です。中国製の電動金槌機で真っ赤に熱した鉄材を加工していました。日本の地方にもまだチラホラと残る鍛冶職人と通じるものを多く感じさせられます。ほかの東南アジア国々の鍛冶屋と同じく、自動車のスクラップ場から材料を入手し、見た目の美しさにはあまり拘らずも実際に毎日の仕事に使用する人達の目的に沿う道具にしています。

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村内の鍛冶屋では自分の見たことのない刃の研ぎ道具があったりとオドロキが多く、勉強させて貰いました。それらの特殊な鍛冶道具は金工を職とする人達らしく自家製で、上の写真の火床のように煉瓦と半分に切断したドラム缶の組み合わせのように"工夫"に満ちていました。一番最後の写真のドラム缶の後ろに映る赤いTシャツの男性が今回のドライバーさんです。パーサクターイ集落の訪問は彼のおかげで実りあるものとなりました。彼からは後日、「 自分にとっても非常に勉強になった」とメッセージを頂き、良い時間を一緒に過ごせたのだと良い気持ちになりました。