昭和初期百貨店様式の宿・シタディーン大阪 (旧 松坂屋大阪店)

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大阪に出張で行って参りました。令和二年の冬、まだGo Toトラベルが実施された時期(出張なので適応外)で、1泊2日の旅程で出掛けました。上の写真は大阪一の目抜き通り・御堂筋の南端にあたる南海なんば駅前に立つ大阪髙島屋。この髙島屋は旗艦店(本店)と位置づけられている店舗で、地域の顔となる建物ともなっています。今回宿泊したのは松坂屋大阪店として昭和九年(1934)に建てられ、戦後に高島屋へ譲渡された経緯を持つ大阪髙島屋の東別館を宿泊施設に転業させたホテルでした。元百貨店のホテルというのはなかなか珍しい...

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戦前の大阪の南北に走る目抜き通りは御堂筋から東に一本隣りの堺筋でした。大正時代には三越、白木屋、髙島屋、松坂屋と百貨店も次々と開業し、大大阪の賑わいを象徴していた場所です。上の地図で赤マルを付けたのが大正十二年(1922)に木造三階建てで営業開始した松坂屋の場所で、増改築を繰り返して拡張を続け"東洋一のデパート"とも呼ばれました。戦後には米軍の接収を受けた後に営業を再開するも、商売の中心は既に御堂筋に移っており売却→髙島屋の東別館として事務所や資料館として使用される道程を辿った建物です。

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 こちらのクリーム色の建物が宿泊施設の入る地上7階建ての鉄筋コンクリートビルです。設計者の鈴木禎次氏は名古屋を中心に多数の作品を残された方で、夏目漱石の義理の兄弟でもあったそうです。堺筋に面した正面側からみると真四角の建物も、昭和三年、九年、十二年と増築を繰り返したので裏側から見ると凸凹しており、その痕跡(継ぎ目)をみることができます。中央の元本館部分、次に建てられた南館部分、最後にできた北館部分の違いが一目瞭然。この建物の手前側(南側)が宿泊した「シタディーンなんば大阪」でした。

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シタディーンなんば大阪はキャピタルランド(シンガポール)参加のアスコットが運営するホテルで、2020年1月にこの建物の南側部分を利用して開業した比較的新しいホテルです。有形文化財に登録されている百貨店建物を改装して宿にするというニュースは目にしていたので、機会を見つけて泊まってみようと思っていたところ、コロナ禍で秋口まで長い間閉業されていたのでした。

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12月上旬にやっと訪れる機会が巡り、初めてお邪魔させて頂くことになったのでした。一階のロビーエリアは百貨店の店内を彷彿させるような造りです。受付が商品陳列棚風であったり、ワイヤーアートで作成した洋服が吊るされていたり、トルソー型のランプが置かれていたり、天井の装飾も通常のホテルとは違った趣きです。

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大理石を多用した壁面、アンカサスを用いた装飾。天井には寺社建築様式の灯りと和洋折衷な佇まいの豪華なエレベーターホールで、華やかな印象を受ける空間。おそらく此の辺りは松坂屋百貨店であった頃のもので、エレベーターの中身以外は当時と一緒ではないでしょうか?
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エレベーターから下りると100メートルはありそうな長い間廊下が現れ、ホールには買い物を運ばされている男性の絵が...。百床に敷き詰められた敷物は百貨店の紙袋で例えるならば、バラ柄の高島屋ではなく、どちらかと云えばタータンチェックの伊勢丹(メンズ)に似ている気がします。各部屋に付いている部屋番号にも数字ごとに異なる柄が充てられており、「泊まれる百貨店」と説明が付くのも少し納得でした。

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客室は木材が多用された部屋に男性x買い物の絵が青い壁に描かれていました。ソファの下には廊下に敷かれていたのと同じ模様の敷物。サービスレジデンスという分類なので、冷蔵庫、電子レンジに加えて調理器具&食器類が用意されていました。東側に向かって窓があり、大阪市立日本橋小学校の校舎が見えました。校庭に子供の姿が一切見えないのでアレっと思い調べてみると、3年前に少子化を理由に廃校でした。

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百貨店時代を彷彿とさせられる赤絨毯の階段。外には百貨店時代にはショーウインドーだった有名な11連アーチのアーケードと少し特別な雰囲気で、此処の床にもアンカサスを模したデザインがなされていました。古代ローマやギリシャより現在までも続き、日本円の千円札、二千円札、五千円札、一万円札の全てにも盛り込まれている最も普及した意匠です。

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朝食会場であるイタリアン・レストラン「Numero  5」に展示されていたハインケル航空機設計の真っ赤なカビーネ。自分が以前に所有していたイセッタと同じ製品グループと見做される小型車です。外観の状態が良く、真っ赤な色合いも綺麗な一台で、床に這いつくばって下回りを思わず覗き込んでしまいました。昭和初期の大型商業施設建築が一番の売りであるシタディーン大阪ですが、自分が一番気に入ったのは実はこのクルマだったりします。