いいちこ日田蒸留所に寄り道して、麦焼酎の製造工程を見学

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大分県に行って参りました。関東の住民からすると九州は"南国"という印象があり、まさか大分自動車が雪の中とは露とも知らずで走破。この日は日田の市内ではなく、そこから山に入っていった場所を訪れる予定になっていたので、念の為にスタッドレス車を借りていたのが功を奏しました。

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少し時間に余裕があったので、麦焼酎業界で売上トップを走る三和酒類(株)の日田蒸留所を見学してみることに。三和酒類は下町のナポレオン・「いいちこ」を製造している酒造メーカーです。いいちこは宇佐地方の方言で「良いですね」の意味だと知ってから随分経っての初訪問となりました。

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日田は周囲を山々に囲まれた盆地地帯で、阿蘇山を源流として有明海に注ぎ込む筑後川を初めとして多くの川が流れ込む水の豊かな街です。現在でも三和酒類を初めとして、サッポロビール、老松酒造、薫長酒造、小松酒造、日田天領水と豊富な水を使用しており大分の酒処となっています。

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日田の市内から10分もかからない丘の上に蒸留所はありました。雪降る平日だったのが原因なのか、大きな駐車場に自分以外の訪問者の姿は見えず。海外向け商品の禅和や心和が買える販売所を先ずは確認。気の良い守衛さんと暫く立ち話をしてから、自由見学と表示された看板に従い進みました。

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内部も外観同様にスッキリと整った印象。実際の酒造りがなされている作業場とは完全に隔絶されており、ガラス越しに内部を覗き見るといった感じでした。日田醸造所はガイドが付き添い案内を受ける見学形式ではなく、通路にある解説板やモニターを見ながら各自自分のペースで進めるようです。

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窓の外を覗くと隣の建物越しに見えた湯気。主原料の大麦を蒸して出たものか、近づいたら良い香りがしそうな煙です。

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麦焼酎のできるまで。麦焼酎は長崎県壱岐が発祥と云われていますが、大分の麦焼酎は壱岐島での米麹でなく麦麹を用いて製造されているのが特徴。麦麹を使った麦焼酎の歴史は案外浅く、三和酒類と共に麦焼酎の2大メーカーである二階堂酒造が昭和48年に開発し、新しい方法・減圧蒸留による淡麗な味わいと相まって市場に受け入れられていったのでした。

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日本酒と同じく大麦にも磨く工程があり、外皮を剥いだ後の胚芽部分を削る事を精麦と呼んでいます。雑味を除くため削るのは日本酒同様で、麦焼酎に用いる麦の精麦歩合はおおよそ60%と言われています。削り工程で発生する「麦糠」には栄養分が豊富にあり、(以前は海洋投棄していたものを)牛の飼料に利用されていると説明がありました。ちなみに「いいちこ」に用いられている大麦はオーストラリア、カナダ産が主で、国産麦は特定の商品にのみに用いられているのだとか。

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3階の一次仕込み室には6基の仕込みタンク(15,000リットル)が並んでいました。此処で麦麹、水、酵母を5日間発酵させると酒の母と書いて酒母ともいわれる一次醪のできあがりです。ガラスで完全に区切られていりため、匂いも音も感じられないのが残念に思えて仕方ありません。

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2階の二次仕込み室。一次仕込みで完成した醪に蒸した麦/大麦麹と水を加えて麦でアルコール発酵する工程で、2週間に渡り仕込むとアルコール分が15-20度にまで上がります。三和酒類は全量大麦麹仕込みを売りにしており、一次仕込みと二次仕込み共に大麦に麹菌を植え付けた大麦麹だけを用いています。飲みやすくする目的で麦焼酎には砂糖が添加するのが常だったのを、糖類無添加にての麦焼酎造りを目指して出来た方法でした。

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蒸留室。2次仕込みでできた醪を大きなスチルポッドで蒸留する工程です。アルコール(78度)と水(100度)の沸点の違いを利用して、高いアルコールを抽出するのが目的です。麦焼酎では減圧蒸留と言われる釜内の気圧を下げて、通常よりも低い温度で蒸留する方法が好まれて使用されています。これは醪のなかの沸点の高い雑味が入らない事で淡麗な飲みやすい焼酎を造ることができるからです。この工程を経てできた原酒のアルコール分は37-43度ほど。

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三和酒類は九州の穀倉地帯・宇佐平野にある3つの清酒酒蔵が高度成長期を迎える昭和33年(1958)に、共同びん詰所を設けた事より始まりました。本家酒造株式会社、熊埜御堂酒造場、和田酒造場の3社に翌年参加した西酒造所を加えた4社が基盤でした。家業から企業へとスローガンを掲げるも、大きな取引先は灘の大手酒造メーカーの下請け業務が主。大きな転換期は昭和50年代の第1次焼酎ブームにて、鹿児島の芋焼酎、宮崎の蕎麦焼酎、熊本の米焼酎広がりを見せ、三和酒類が麦焼酎に参入したのもこの時期でした。その後のいいちこの快進撃は皆さんもご存知の通りです。

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貯蔵庫にて原酒の入った大きなタンクと樽が並ぶ様子です。ホーローのタンクは60本、樫樽は1,500樽とかなりの数です。日本酒と焼酎は新酒を楽しむものとい概念が一般的ですが、世の中には20-30年物を飛び越えて40年モノの芋焼酎や米焼酎もあったりします。麦焼酎でも20年モノの濃醇さを感じる古酒が出回っています。いいちこでは2015年に丸みと味幅を持つ3年熟成の「いいちこ長期熟成貯蔵酒」が販売開始されたばかしなので、麦焼酎いいちこの古酒の評価はまだこれからの様です。

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試飲コーナーがあるも、運転手は自分だけなのでジット見るだけ。海外の雄大な景色とビリーバンバンの歌声の広告で有名な「いいちこ」ですが、そのCMの中には理解不能なモノも多くあります。海辺でライフセーバー5人が救助で海に飛び込むも帰ってきたのは3人+1人の救助者というシーンがビリー・バンバンの歌声で「これが恋だと言うならば、どんなに苦しくとも 僕は構わない」と流れるだけのテレビCM。「この何処が、麦焼酎と関係あるんか?」と憤りを感じるモノもありました。試飲コーナーがあっても呑めない...。

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左手に見えるレンガ造りの建物が第二製造所、第一/第二貯蔵庫で麦焼酎の原料・大麦をデザインした窓が特徴的に映ります。この工場は元はニッカウヰスキーの工場で、建物はニッカウヰスキーのモノをそのまま使用。ウィスキーの原料も麦焼酎と同じく大麦なので意匠はそのままでも違和感なし。

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第二製造場には「いいちこ」のロゴの入った帽子やブルゾン、Tシャツ、傘等が展示されていました。世の中には何でも愛好家がいるものですから、いいちこコレクターが舐めるように見続けるお宝もあるのでしょう...自分には全く解らず。

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見学できる工程内で作業者を見たのは皆無でした。この規模であれば数百人が働いていてもおかしくないのが、売店で聞いたところによると30人程しかいないとのこと。伝統的な手間のかかる古い古式製造方法を好む自分としては少し物足りなさを感じる清潔空間ばかしが広がる工場でした。強烈な個性を持つ創業者がグイグイ引っ張て来た訳でなく、「人の喜びも悲しみも知ろう」と掲げる標語も味わい深い枯淡の響き。あまりに整理整頓された現場を見ると何処かに粗があるのではないかと探したくなる蒸留所に思えました。