娘のランドセル選びで奈良県へ、鞄工房山本さんで工場見学&購入

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自分の親世代がどの様にランドセルを選んでいたのかは尋ねた事もないのですが、おそらく自分の祖父母が大きな町の百貨店に出掛けて買い求めたのではないかと思っています。自分の息子が小学校進学時のランドセル選びは想像していたものと少し違い、入学する前年の夏には勝負がついていると呼ばれる様相をみせていました。現在では"ラン活"と呼ばれている一種の通過儀礼を受ける事になりました。息子と三学年差の娘が今年の春に小学校に入る年となり、ランドセルの製造工房に家族で奈良県にお出かけして参りました。

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息子に買ったランドセルは名古屋の萬勇鞄という会社のランドセルでした。どこの家庭でもそうだと思うのですが、子供自身はランドセルに興味はなく、何を買うべきかと親がアタフタするだけ。自分は東京育ちなので、ランドセルとして当初知っていたメーカーは足立区にある大峽製鞄に土屋鞄、テレビで頻繁にCMを見る羅羅屋/セイバンという会社ぐらいでした。大峽製鞄はランドセルの原型を作り、皇室御用達。土屋鞄は営業戦略が上手く、大人受けするランドセルを雑誌等で見るメーカーといった印象を大雑把に持っていました。

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ランドセルに対する妻の要望は牛革でないことの一点のみ。なんでも、小学校の時に使っていたランドセルが卒業前にはボロボロとなってしまい、学校に持っていくのすら恥ずかしい状態で嫌だったとのだとか。幾つかのランドセル工房を実際に訪れて見学するも情報過多で頭がグラグラするばかし。東京・恵比寿で展示会を催していた萬勇鞄で、スポーツ好き男の子向けと書かれていたオラージュという黒ランドセル(人工皮革)を勢いで購入したのでした。

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息子のランドセル選びの経験を経て、どこのメーカーのランドセルを選んでも性能的に大差は余りなく、あとは好みの問題というのが理解をしていました。なので、娘のランドセル選びは自分達に縁のある場所で製造されているモノをと奈良県にあるランドセル工房を訪れてみました。持統天皇が「春過而夏來良之白妙能衣乾有天之香來山/春すぎて 夏来にけらし 白妙の衣ほすてふ 天の香具山」と詠んだ大和三山のひとつ・天香具山の麓にあるランドセル屋さんに向かいました。

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奈良県は母親の生まれ育った故郷で、自分の仕事でも訪れることにより訪問回数は通算3桁と頻繁に訪れています。妻は学生時代に日本史を専攻しており、特に飛鳥・奈良時代が好きらしく京都よりも奈良に行くのを好む人間。自分達の結婚式を神武天皇を祀る橿原神宮でと考えたこともありました。その奈良県、天香具山の麓のランドセル工房であれば妻は反対はしないだろうと見込んで、先ずは自分が関西出張の際に様子を見に行くことにしたのでした。

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初めて訪れたのは娘の入学一年半前の収穫の季節でした。稲はすっかり刈られており、藁で束に結び稲架にかける作業が香具山の麓の田圃でなされていました。そばに寄ると稲穂の匂いがしてきます。じつに美しい風景です。誰の作かは忘れてしまいましたが、「ひろびろと稲架の日なたの日のにほひ」という詩が脳裏に浮かびました。

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奈良でよく見る、畦道を舗装しただけの様な狭道(言い過ぎ)を歩いて集落を抜けていきました。天香具山は大和王権の揺籃の地・磐余(いわれ)に接し、標高152mの香具山を10分ほどかけて登れば、畝傍山や広く大和盆地が望めます。実は天香具山は訪問日まで桜井市にあると認識していたのですが、正しくは橿原市でした。桜井市に住む叔母と話した時に、「桜井市には、みより峠のランドセル屋ともう一軒ランドセル屋がある」と聞いていたのを自分が早とちりしたようです。

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こちらが鞄工房山本の工房建屋です。東側の集落から来たので、工房内の音と様子は開かれていた窓から少し見えていました。その背後には太古の祭祀場を思わせる天岩戸神社が、さらに後ろにが天香具山の緑が見える長閑な雰囲気の場所です。工房の敷地に立つクスノキは樹齢400年の古木だそうですが、この歴史ある土地ではまだまだ若輩者のようです。

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見学自由と言われた工房内には見学通路のようなモノはなく、実際に作業されている方々の仕事を邪魔にならないようにと歩く形式で、工房内の作業者も慣れたものか見知らぬ人にも皆挨拶をしてくれました。ビデオ撮影は不可、刃物やトンカチ等の危険となる道具もあるので、子供達から目を離さない様にと家族でお邪魔した時にはお願いをされました。

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此処で使用される牛皮は長野県で加工されたものと伺った記憶があります(確認はしませんでしたが、 飯田市にある宮内産業社だと思われます)。上の写真は自動切断機で、前工程にて血管を避けて切る箇所を決めたデータを元にしてエアカッターでスパッスパッと切る機械です。半身の牛革からランドセルの各部材となえる形に皮を切り出し、厚みを均一にしたり、縫い合わせたりして沢山の部材を作っていきます。

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背中部分と"かぶせ"と呼ばれるフラップの部分が縫い合わされており、この部材がランドセルであると理解できる姿となっていました。工房内は年寄りとパートのオバサンばかしかと思いきや、若い人達が多く活気を感じさせる場所だと映りました。カタカタカタ、ガタガタガタガタ、ダダダダダダ、カッシャン・カッシャン、シャシャシャと実に多種多様なミシンの音が鳴り響く賑やかな職場です。"工房"と言うと職人が一点一点造っているというイメージが自分にはあり、社名の鞄"工房"よりは大きい生産体制(ランドセル年間2万個ほど)だと感じました。

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国内の小学生の数は全国で現在600万人ほど。毎年100万人の1年生が誕生し、ランドセルは彼等が小学生になる時に買われる商品です。自分が子供だった頃には200万人程だった入学生と比較すると半分になったようです。しかしながら、ランドセルの平均単価は自分の頃は2万円程、それが現在では5万円と金額ベースでは市場が拡大している面白い商品です。6年間使い続ける事を前提に、一生に一度の思い出商品としての価格は右肩上がりの上昇を現在も続けています。我が家のジジババは「10万円で良いモノを」と、充分な軍資金を用意してくれました。

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鞄工房山本は「歴史と緑に囲まれたカバン屋さん」。元は田圃だった場所を駐車場にして、古い家屋のあった場所に2015年の夏にショールームを新規開店しました。先程訪れた工房も10年以上前には現地になかったはずだと記憶します。工房系と呼ばれる中小ランドセルメーカーは大消費地である人口密集地区にある事が多いのですが、鞄工房山本は長閑な雰囲気の漂う場所にありました。

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何故か"見ざる"と"聞かざる"の2猿だけが飾られているショールームの門です。写真に映る麦わら帽子を被る娘の服装からも分かるかも知れませんが、2度目に訪れた時は子供達の夏休みでした。とても古い時代から続く家系の御当主よりお手紙を頂き、そちらへ遊びに行く途中に立ち寄ったのでした。

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ショールームの入口です。鞄工房山本の工の字が"互"とも"丂"とも読めるような表記となっています。ガラス戸の向こう側には無数のランドセルが展示されているのが見えていました。息子に同じクラスの同級生のランドセルの色を聞くと、男の子は黒一色、女の子はピンクか赤との答えが返ってきました。自分が街中で目にする子供達が背負うランドセルの色も同じ印象です。展示会では金や銀等のパーティ用ランドセルかと見紛うばかりのものも有りましたが、実際には自分が子供の頃と同じような選択がされているようです。

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自分が娘のランドセルを選ぶとしたら、刺繍や光り物等の装飾性を全て排したカーマインレッドのランドセルを選びたいところです。妻は鞄工房山本の製品であればアンティークブロンズのオレンジ色か、ラフィーネのワイン色を選びたいとショールームで実物を見ながら言っていました。幼稚園に入った頃はピンク系のものが多かった娘の最近のお気に入りの色は水色。展示されている鞄から選んだのはフランス語で"品の良い"を意味する商品名を持つRafineマリンブルーでした。

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自宅に届いた娘のランドセルを観察。かぶせの部分には花を載せた王冠を模した刺繍があり、その花の中心にはガラス玉。ファスナーの引手とカシメには4つ葉のクローバー柄で、側面の花のモチーフ中心には反射鋲が用いられている等々...自分には装飾過多に感じられるも、娘の選んだモノなのでその辺りには目をつぶるとします。

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ほかの革製品でもよく目にする"菊寄せ"が施されていました。菊寄せは製品のコーナー部分の処理方法のひとつで、大きめ切断した革を内側に折り込んで、角部分をひだ状に折っていく工法です。購入時には目に入っておらず、自宅でマジマジと眺めて初めて気が付きました。

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かぶせ部分の端にはコバ塗りが施されています。写真でも分かると思うのですが、複数の革をあたかも一枚のものかの様に見せる効果があります。表裏を同じ長さで揃えて切断し→その切断面を研磨して→ニスを塗り重ねて→乾かしてを繰り返す作業です。端(コバ)は茶色で、表側の色とコントラストを魅せる色となっていました。

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ポケットの内部はこんな感じです。王冠マークの内装が内ポケットにも施されていました。ポケット横が蛇腹なので、開けた際の落下防止となっています。小マチを拡げて欲しい、取っ手を付けて欲しいと欲張りたい気持ちもあるも、ポケット部分の造りや縫製の確かさを見て、鞄工房山本のランドセルを買ったのは間違えでなかったと確信できました。

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おまけ:   娘のランドセル選びを終えました。息子のランドセルを再び選び直せるならば、息子にはカルちゃんランドセルで有名な神田屋鞄製作所での牛革オーダーメイドを試したいと思っています。一般販売されている神田屋の商品ですらランドセル業界ダントツの強度を誇るものを、極限まで強さを求める仕様で特別オーダーをかけて、「象が踏んでも壊れないランドセル」を目指してみたいです。使用する牛革は世界最古種かつ、世界最大の大きさ(肩高2m)を誇るキアニーナ牛はどうでしょうか。世界最強のランドセルを造ってみたいぞ!!