三崎港の江戸から続く染物店にて、古希のジジババへの大漁旗を造る

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豊漁を浜で待つ人々に伝えるために、船上に掲げられて用いられたと云われる大漁旗。北海道から沖縄までの日本全国で見られ、現在では大漁に限らず新造船の進水式、結婚、出産等の祝い席に華を添えるために飾られることも多い祝いの旗です。古希を迎えるジジババの祝いの席を、孫の造った飾り旗(大漁旗)を飾ろうと思い付き、神奈川県に家族で行って参りました。目的地は染物店のある三浦半島の先端です。

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西に相模湾、東に東京湾、南に太平洋と三方を海に囲まれる三浦半島の南端に三崎の町はあり、天然の防波堤・城ヶ島に護られた天然の良港を持つ漁師の町として栄えてきました。カジキやマグロ、ブリ等は現在でも国内有数の水揚げ量を誇り、全国で13港しかない特別第三種漁港の指定を受ける重要港のひとつとなっています。

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そんな三崎港にある駐車場にクルマを停めて、磯の香りの漂う漁港を歩いて目的のお店「三富染物店」へと向かいました。三富染物店は天保四年(1833)以前に創業したと伝わる染物屋で、幕府御用職人として戦幟や藍染の半纏を染めていた長い歴史を持つお店です。

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房総半島が発祥と云われる「萬祝着」が大漁旗の起源ではないかという説があります。大漁時に舟主が漁師達に祝いの品として艶やかな反物を贈り、それぞれの家庭で半纏や長着として仕立て、正月参拝のようなハレの舞台でその粋な姿を見せる。この萬祝(まいわい)の習慣は広く太平洋沿岸の漁村に伝わり、染付けの方法も一緒に伝播したようで、北海道から沖縄まで大漁旗を造る染物屋が各地に見られる様になったと考えられます。

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海に面した長い海岸線を持つ神奈川県ですが、現在でも大漁旗を作製しているのは三富染物店の1軒のみ。全国を見渡すとプリント印刷(機械塗り)を用いる染物店も多くありますが、三富染物店は伝統的な手塗りを続けており、現在は七代目にあたる三富(みとみ)さんがその技術を継承しています。全国から注文を受け、年間に造る大漁旗は500本以上だとか。

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お店横の細い路地を抜けると小さな庭があり、そこが工房の入口になっていました。染め抜いた大漁旗をこの庭でも干すこともあるのだとか(天気が悪いと屋内ヒーター)。

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事前に体験をお願いしていたので、作業場にはいると既に長い大漁旗の元布が宙に浮いていました。張手(木枠に釘を打ったもの)と、針子という竹の棒を用いて綿布をピンと張った状態にして固定しています。古式な仏画作製の布張り方法と似通った印象を受けました。綿布は巻物のカタチで生地を購入するので45cmや90cmの生地幅が基本となり、大きくする場合には継ぎ合わせが必要だとか。

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大漁旗は屋外で雨風に晒されるモノで、屋内展示が基本の絵画と違い色をキャンバスの表面だけでなく、その内側まで染み込ませる必要があります。水に溶けないのが顔料で、水に溶けるのが染料。染物には後者の染料が主に用いられます。

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選べる図柄は鯛に、鮪、鯨、カジキの4種類。三崎港は鮪で有名なのでマグロの図案と、めでたい鯛の図案の2種類をお願いしていました。糯米と糠を煮たものを、濾して造った糊を置く「糊置き」という作業が終わった状態からの染め物・体験開始。この糊を用いる「糊防染」は江戸時代に確立した染色方法で、染めたくない場所(白抜き)に糊を置くことで細かいデザインが施せるようになった技法です。この絵柄の下絵は型紙を用いているのか、手描きで一枚一枚準備しているのかは聞くのを失念...。染料だけだと太陽光で変色しやすいので顔料も使用しているとの事でした。

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染色に用いる筆達。オリーブ色の筆先は鹿の毛と伺った記憶があるも記憶に自信なし。この筆と大きめな刷毛を使用して細かい部分を親が、大きな部分を子供達が染めてとガシガシ進めていきました。娘はまだ幼稚園児ですが、もとから絵が好きなので殆どひとりで仕上げてしまいました。しゃがんでは床に置かれた染料を筆に含ませ、立ち上がっては筆で塗るスクワット画法。「台車か何かに染料皿を載せるという発想はないのか!?」と心のなかだけで騒いでいました。

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まだ大海原に色が入っていない状態でしたが、鮪に眼を入れる大切な瞬間の一枚。日の出の太陽を背にしたマグロが波打つ海上を跳ねる絵柄です。波の上+魚は大漁旗として定着している構図なのですが、定着したハッキリとした経緯は不明だとか。こっちの旗は娘+父親グループで造りました。

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こちらは息子+母親グループで造った"おめで鯛"の絵柄。全体的にのっぺりした絵柄ですが、波に陰影を付けたり、滲みを利用して立体的にしたりと工夫中。全体の色染めが終えたら→乾燥→糊落としの洗い→飾り付けをして、旗のカタチに仕立てれば大漁旗の完成となり、乾燥から先の工程は三富染物店がしてくれます。

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裏面から見ると、完成した時の凡その姿が見られると聞き、絵の下にしゃがみ込んで、上を見上げると色鮮やかな姿が!! 大きさ45cm x 60cmのミニ大漁旗が二枚。出来上がった大漁旗を祝いの席に飾ったら両親は喜んでくれるでしょうか? 現在から楽しみです。