山口県の山奥の大きな酒蔵、獺祭製造元・旭酒造で工場見学

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山口県に行って参りました。今回は寄り道ではなく、是非とも一度見学してみたいと思っていた旭酒造に工場見学の予約を入れての訪問です。旭酒造は日本酒で上等品にあたる純米大吟醸しか造らない方針を持ち、その商品・獺祭(だっさい)は日本のみならず、海外でも高い評価を得ています。香り高く、スッキリした味わいは海外から来る自分の取引先の方々に実際に飲んで貰っても概ね好評で、出張時の手土産にと買い求めることも多いお酒です。

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岩国市から西に20キロ程、緑深い山々に囲まれた場所・獺越に獺祭を造る本社工場はありました。この過疎化地帯にあった地元に媚びるばかしの古びた酒蔵が起死回生の商品「獺祭」を東京の市場に投入したのは平成に入ってからで、日本酒の級別制度が廃止など日本酒業界で大きな変革が起きていた頃でした。その後は右肩上がりで業績を伸ばして行き、30年で売上100倍。現在では全清酒メーカーでも売上ベスト10に入る迄に大きくなった会社です。

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2018年7月、その旭酒造に西日本各地に記録的な豪雨をもたらした異常気象が牙を剥きました。周囲の山が崩れ、本社蔵そばを流れる東川が氾濫し本社蔵1階及び直売所が浸水/停電。停電により酒造りの温度管理ができないために、仕掛品は全て獺祭としては売れなくなってしまったのです。それから、旭酒造が生産復旧するのには凡そ2ヶ月を要しました。

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道路左の高さ59メートルの巨大な建物が「山口の山奥の小さな酒蔵」こと獺祭本社ビル。心做しか若干右に傾いているように見えるのは気の所為ですよね。右手に見える学校は岩国市立周北小学校で、ここの校舎も濁流に襲われ校舎が水に浸かり、運動場は完全に水没してしまいました。獺祭がこの場に大工場を建てたのは創業の地である他に、日本酒の味を決める重要なもの"仕込み水"が原因にありそうです。参照にと付近の錦見浄水場の水質硬度を調べてみると、21-23mg/Lと国内でも極めて"柔らかい"軟水でした。

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田園風景広がる周囲とは隔絶の感のある12階建ての威容を誇る本社ビル、最上階には社主御殿。この建物だけを見ると典型的な故郷に錦を飾ったものの、まわりを見下ろせる最上階に住んでいて有頂天になっている経営者。脚元から崩れ落ちる日は遠くないな...と大変失礼な絵が頭に浮かんでしまいました。ちなみにこのオフィスビルは酒蔵であります! 下調べを一切しないで突入したものの、獺祭に杜氏はおらず(経営難の時に去られた) 、データ管理を強化した酒蔵だとは何処かで聞いた記憶がありました。この建物が蔵だと見た時には一本ラインは不可能でも、殆どオートメーション化した日本酒工場だと凡人の頭にまず閃いたのでした。

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製造現場前のエリアに新家屋建設の記念品が置かれておいるのが目に入りました。現在の大型ビルが立っている場所には旭酒造の100年を越す旧蔵があったそうです。衛生帽と白衣に靴を指定品に取り替えて、半導体工場等のクリーンルームに入る時に必ず通過するエアーシャワー室を通って、「いざ往かん、獺祭工場見学!!」と意気揚々での出発です。

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スタッフの背中には愛くるしい秋刀魚を持つ狸が...。気になったので、獺祭という聞きなれない言葉の由来を尋ねると「獺(かわうそ)が捕らえた魚を並べる姿が、詩作する時に文人が書物を並べる姿に見えるから」だそうです。地元の獺越の地名の一文字をと"良い酒造りを求めて勉強してます"が意味するところだと理解。

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10階にある洗米・蒸米工程が最初に案内を受けた場所でした。この上の11階は宿直室、更に上の12階は社長宅&会議室となっております。獺祭は四季醸造(冬場だけでなく年中酒造りしてる)で、室内は寒い5度の設定。日本酒造りの工程順で言えば精米工程が最初ではと問われそうですが、精米は周防高森駅等の近くの別工場にておこなわれているのだとか。

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一本ラインどころかバッチ式...。全自動日本酒製造どころか手作業で米糠を洗い流しております!  米の状態をよく確認できるようにと設定されたのが15kgごとに小分けしての作業。精米工程にて失った水分を自然値に戻ったものを洗米しており、人の手でおこなわれているのは吸収率の管理がより厳密にできるからだそうです。

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精米歩合50%のを見させて頂きましたがビーズ玉のようでした 。獺祭の主原料となる日本酒専用米・山田錦は主に兵庫県産が用いられています。そして消費されるのは地元ではなく主に大都市圏となっており、灘や伏見にある大手蔵と同じだとの印象を強く抱かせられました。

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わ、和釜!?  この規模の工場であればボイラーでの蒸米かと思いきや、和釜と重労働とも言えるその作業を人がおこなっているとの事。俗に言われる外硬内軟の蒸米を得るには、高温/乾燥した蒸気を発生できる和釜を用いているとの事でした。獺祭は設備こそは投資を惜しまず機械化されていますが、フルオートメーションは勝手な自分の妄想であったようです。

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蒸した酒米を冷ます工程にて、蒸米放冷機のベルトコンベアを駆け抜けていきます。この後工程に麹造り/仕込みがあるのですが工場見学のルートには残念ながら入っておらず、後でビデオ放映の中で触れられていました。杜氏の去った旭酒造では麹造りは直感では勿論できなかったので、麹種つけ台での重さと湿度を各床ごとに計測しながら麹造りをマニュアル化しており、現在もデータ管理によって製造をしているそうです。但し、其方も人の手と目で二昼夜半に渡り醗酵の状態を見守っているとの事でした。

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こちらが獺祭の醗酵室。旭酒造全体で300本のタンクがあるうちの100本が並んでいます。1階100本x3階=300本。酒母の酸度を保ちながら、安全に醪を造る日本酒伝統の方法・三段仕込みで満たされたタンク達。このタンクの間の通路を歩くと、米麹の香りが漂い素面でも良い気分になります。

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ここで合計40日の発酵期間を経て次工程・上槽(酒水と酒粕の搾り分離)へと送られる訳です。写真は仕込みしてまだ日が浅いのか米のカタチがまだ見られる具合。麹が米の糖分を溶かし発酵が進むとより液状になっていくものです。温度検査機が写真に写っていました。このタンクは水冷仕様となっていて、発酵スピードが早い(温度上昇)と、「まぁまぁ、そう焦らずとも。タンク内の極上山田錦は逃げられやしませんよ」と酵母を宥める役目を持っています。

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 獺祭の工場内には家が一軒買える価格の製造設備がポンと置かれていたりしました。東京台東区にあるコクサン社が世界で唯一製造している遠心分離機を一番手で購入したのも旭酒造でした。せっかく工場見学にきたのですから稼働している音や振動を感じてみたかったのですがお目にかかれず残念。職業柄色々な工場を見てきましたので、旭酒造が製造能力の上限近くで操業しており、若者主体の活気ある会社であると肌で感じられました。NYに酒蔵を拵えて米国産米と米国の水で酒造りをしたり、熊本県玉名にある花の香酒造等の"小獺祭"も誕生しており、日本酒新時代の先頭を走る会社はこんなところかと納得でき意義ある工場見学でした。

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旭酒造の本社工場を小規模な日本酒蔵だという認識で見るらならば、聳えるビル蔵の様に大きく変わった蔵だとの認識を持ったと思います。初めからデータ管理酒造という色眼鏡で見ていた為か、ほぼ全ての工程が伝統的な手作業でおこなわれているのを知って実は少しガッカリしました。もっと超未来的で、革新的な工場を期待していたのでしょう。

日本酒の大手メーカーは杜氏の感ピューターではなく、細かいデータを根拠として季節を問わずに大量の酒造りを少数社員スタッフでおこなうのが当たり前です。データ管理をしながらの酒造りは何も旭酒造の専売特許ではありませんし、保守的と思われる酒造メーカーの外の製造業に目を向ければ量産メーカーは言うまもなく...。まぁ、そのあたりを言葉巧みに物語にして、消費者に良いイメージを与えているところが旭酒造の仕込みの上手さでもあるのでしょう。

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隈研吾氏設計の獺祭本社ストア。甘酒色で雫のカタチをしたライトが並ぶお店でお買い物です。磨き2割3分と獺祭ショコラを妻への手土産に求めました。獺祭焼酎も話題造りに良いかと悩みましたが、磨き3割9分の4合瓶の方が安価で味も良いはずなので獺祭焼酎はスパッと今回は諦めました。

妻に呑んで貰い感想を求めたところ、獺祭は呑みやすくモチロン美味しいのですが、それに輪をかけて獺祭ショコラが良かったとの事でした。「日本酒に合うチョコレートがあるとは…」と愉しんでくれた模様。ヤンチャな子供達に、言う事を聞かない夫。あれもコレもと日々の忙しさに追われている妻に、獺祭ショコラを秘密裏に追加購入しました。2月のバレンタインにでも冷蔵庫内の目立つところに置いてみようと、自宅にコッソリ隠していたりします。