房総半島南部の丘陵地のケモノ道を子供達と辿ってみる

f:id:tmja:20201129112502j:plain

今回は千葉県に家族で出かけた話しになります。三方を海に囲まれた房総半島南部は上総丘陵や安房丘陵と呼ばれる丘陵地が広がり、それらの丘陵地と海の間にある僅かな平地に人々が集まり住んでいます。 また、丘陵地には河川の侵食でできた谷が沢山見られ、山里には人間が、山中には多くの野生動物が棲む場所となっています。うちの子供達は動物が好きで、息子などは「俺、街中より田舎の方が好きかも...」と牛舎で牛達を眺めながら呟く程です。そんな子供達を連れて獣道を辿りに千葉県南部を訪れたのでした。

f:id:tmja:20201129125408j:plain

房総半島の丘陵地は他の山地と地理的に独立している為に、生存競争に生き残ったハクビシンやキョン等の外来種の比率が高いのが特徴で、全国的に厄介者と知られる猪すら"外来種"です。古来より房総半島に生息している猪がおりましたが、農作物が荒らされるのを嫌い乱獲がおこなわれ1970年代に一度絶滅。現在は人為的に放たれた"国内外来種"である猪が繁殖を繰り返したものと云われております。

f:id:tmja:20201129112455j:plain

近年では街中にも鹿の仲間である外来種・キョンが多数出没することでニュースにもなり注目を集めました。東京オリンピックの開催年に同じく開業した南国系の動/植物を展示する行川アイランド(上地図赤○位置)にいたキョンが1980年代に園内より逃げ出し、年月を掛けて繁殖を繰り返し、猪、鹿、猿と並ぶ南房総の厄介者として年々幅を効かせるまでになっているのだとか。キョンが国内で繁殖しているのは都立大島公園より脱走/繁殖した伊豆大島と房総半島のみで、上の地図で紅線を引いた国道465号(富津-いすみ)と国道128号(館山ー鴨川)に挟まれた山域が最もキョンが集中している場所で、4万とも5万頭とも言われるキョンの住処となっています。

f:id:tmja:20201129161740j:plain

キョン(上の写真はWikipediaより)と国内で一般的に云われているこの小型草食獣は、中国大陸の南東部及び台湾に生息する生き物で、その鹿の様な特徴により「麂」、または羊の様な外観から「羌」という文字が当てられ、日本には羌の台湾での読みが輸入されてキョンと呼ばれています。鹿科の動物で体長は4-70センチ、体重は10キロ程と小型で、雌は生後半年程で成熟し、7ヶ月程の妊娠期間で繁殖し続けていくので数が年間2-3割のペースで増加していく厄介者です。日本国内では2005年より特定外来生物に指定されており、"輸入元"である台湾では長く保護対象生物でしたが、数が増えて来た為に保護対象より外れて一般動物指定と最近なりました。

f:id:tmja:20201129112416j:plain

キョンの天敵となるであろう狼は既に絶滅して国内におらず、熊も関東平野がある為に北側より山伝いで南房総へ渡ることは難しく生息せず。農作物被害に怒る人間のみが唯一のキョンの天敵となっています。猛烈に増える状態を問題視しながらも、鳥獣保護法では狩猟対象となる生物にキョンが指定されていない為に猟銃による捕獲は認めておらず、現在は専ら足括り罠などのワナ猟にて捕えているのだそうです。括り罠は踏むとバネが作動して、脚をワイヤーで捕らえるものです。下は息子がその実験台になった時の動画です。

f:id:tmja:20201129112443j:plain

f:id:tmja:20201129112429j:plain

そんな房総半島南部で自分達がこの日に向かったのは、千葉県いすみ市でした。狩猟というと我が家では伊豆半島の鹿なのですが、今回は目先を変えて千葉県にてキョンやイノシシの獣害駆除に携わり、狩猟体験ツアーも企画/運営をされている方の元を訪れることにしました。目的地の集落内では、白い煙で視界が塞がれてしまい、クルマが全く進めなくなるほどの野焼きの煙の洗礼を受けて到着したのでした。

f:id:tmja:20201129112447j:plain

f:id:tmja:20201129112510j:plain

クルマから下りて、丘陵地帯の一角を少し登ったところから獣道を辿っていきます。少し登ると房総丘陵にできた谷(やつ)が認識でき、集落が近くにあるのが感じられる具合の距離にいるのが分かりました。獣道はある程度の身体の大きさ持つ哺乳類が作るものなので、ここでは人間、猪、鹿と言ったところでしょうか?  未だ野山で見たことのないキョンがどの様な痕跡を残すのかを気にしながら歩きました。

f:id:tmja:20201129112521j:plain

f:id:tmja:20201129112451j:plain

道すがらにはペッドボトルを使用した蜂を獲る罠がアチコチに仕掛けられていました。2リットルほどのペットボトルに酒、砂糖、甘いジュース等を混ぜた”地獄液”を準備し、加工したペッドボトルにある程度入れるだけの簡単なワナです。蜂が飛ぶ2メートル程の高さにこれを吊るしておけば、誘き寄せられた蜂が地獄液で溺死するといった塩梅のものです。

f:id:tmja:20201129112421j:plain

猪の糞発見(写真中央上あたり)‼ 普段の山登りではあまり気にしないものが、動物をメインに据えて歩くと見えるものも違ってくるものです。猪はその臆病な性格により、人里のような緊張を強いられる場所で排泄はしないものなので、この辺りは猪の領域だと分かるのでした。

f:id:tmja:20201129112411j:plain

f:id:tmja:20201129112514j:plain

カモシカの通り道かと疑う傾斜面を辿っていきます。枯葉をガサガサ言わせながら歩いていたので、賢い猪は数メートル下を人間の足音に合わせて、全く気付かれずに悠々と歩いていたかもしれません。崖側の斜面には低い場所のみが食された植物があり、おそらくは背の低い小鹿(もしくはキョンか!?)による食痕が確認できました。

f:id:tmja:20201129112505j:plain

齧られた倒木の脇に黒いぬかるみ・ヌタ場が見えます。泥場でヌタ打ちまわり、その泥パックが乾いた時に寄生虫も一緒に落とす習性を猪は持っています。とは言っても、子供達は勿論のこと、自分も猪がヌタ打ちまわっているのを見たことがないので、一度は拝んでみたいと思っていたりします。「のうちまわる」の語源は此処から来たんだよと子供達に教えようとするも、「のたうちまわる」という言葉自体を知らずで失敗したのは内緒のはなし。鹿や猪は枝などを跨ぐ習性があるので、倒木横のヌタ場は良い罠を仕掛ける場所になりそうと説明して誤魔化したのでした...

f:id:tmja:20201129112425j:plain

獣道探索中に鹿やキョンでも付近に少し表れてくれれば良かったのですが姿を見る事はありませんでした。クジラの解体に不快感を持たなかった息子はともかくとして、娘はまだ狩猟/畜産を含む動物性食物の来歴を理解できる(受け入れられる)年齢ではないと判断しているので、罠に捕まった暴れる動物の姿や止め刺しはまだ見せられないと考えています。なので、さわり程度の獣道歩きで丁度良かったかもしれません。スパルタ教育を施されている息子は、更に踏み込んだ体験に後日連れていかれるのでした。